【ハンス・ピーチ・メモリアル2007 第5回学校対抗囲碁選手権 大会レポート】


浅井英樹 訳
アンドレ・ヴァイアーによる試合経過と結果の報告
  6年前に凶弾に命を奪われたドイツ人プロ棋士ハンス・ピーチの業績をたたえて、2007年9月22日と23日、ハンブルクのラールシュテットで、第5回ハンス・ピーチ・メモリアル(HPM)が開催されました。昨年はルクセンブルクから1チームの参加がありましたが、今年もオーストリア、オランダ、チェコからの参加があり、全部で36チーム(2003年12チーム、2004年16チーム、2005年24チーム、2006年31チーム)による国際的な大会になりました。実力順に上位16チーム(うち3チームが国際チーム)が、最初に2試合行い、4チームによる決勝トーナメント進出をかけて争いました。総当たり戦の決勝トーナメントの結果、優勝したのはチェコから来たチームでした。
 準優勝は、ベルリンのプリモ・レーヴィ高校(ビューリング高校から校名変更)で、昨年につづいてドイツナンバーワンの座を守りました。以下、3位がベルリンのアルブレヒト・デューラー高校、4位がグラーフィング・ギムナジウムでした。他のチームはピーチ賞をめざして戦い、ハーメルンのアルベルト・アインシュタイン・ギムナジウムがピーチ賞を獲得しました。これに続いたのが、勝ち数とポイント数で同着だった4チーム(カストロプ・ラウクセルのヴィリー・ブラント総合学校、フレンスブルク旧ギムナジウム、カッセル改革学校、メークレンブルク・フォアポンメルン州からの混成チーム)でした。


イエーナから初めて参加したリコ・シュトルベルクの感想
 イエーナのチームは7時間かけた末、夜遅くにハンブルクのオルデンフェルデ・ギムナジウムに到着しました。心からの挨拶を簡単に済ませた後に、すぐに暖かい夕食が出ました。それから部屋が割り振られました。翌日、とてもたくさんの、下は8歳、上は20歳までの生徒たちがハンブルクに来ているのに驚きました。開会式の後、試合が始まりましたが、どの碁もとてもどきどきさせる楽しいものでした。知らない相手と対戦して自分たちの実力を試すことがやっとできたわけですが、まったく新しい相手の手に応戦しなくてはならなかったので、どの碁もより面白いものになりました。食事もおいしかったし、新しい友達とも知りあえました。連碁や、夜更かしもできたし、フリスビー碁(屋外で2色のフリスビーを碁石にして碁を打つ)などの面白いアトラクションもありました。土曜の夜には、思いがけず、おもちゃのボートレース大会がありました。制限時間1時間以内に、小さなブリキの蒸気機関ボートを作るのです。いくつかのチームは本当に大あわてで作っていました。一番早いボートと並んで、一番よくできたボートも表彰されました。3人の生徒のピアノコンサートがその晩のハイライトでした。

 この2日間は、日曜日に、表彰の際のたくさんの拍手とすてきな閉会のあいさつで幕を閉じました。午後3時に私たちはイエーナへの帰途につきました。素晴らしい思い出と、また来年も来たいという願いとともに。私たちにこの素晴らしい週末を与えてくれた、組織委員会、スポンサー、食事班の皆さんに心から感謝します。




HPMの終わりは、HPMの始まり—大会実行委員長のトーマス・ノール
 2006年9月にオーバーウルゼルで行われた昨年のHPMからの帰途におけるノートパソコン上で、下準備はすでに始まっていた。このレポートを書くことで私の仕事は終わるが、その間に361回(?)の会話、169通のメール、81回の電話、25回の運営会議をした。もっと数字を挙げましょうか。各地から集まった144名の選手と指導者たちによって構成された36チーム。12人の調理担当の両親たちは、たくさんの助っ人のおかげで、誰も空腹のまま盤に向かわせないように力をつくし、いろいろな話によれば、首尾良く運んだということだ。7人の来賓中5人が短い挨拶をし、挨拶のセレモニーが成功裡に終わり、ピーチのお母さんが開会宣言をした。

 競技の合間には、卓球、バドミントン、フリスビー碁、ヨーヨー、曲芸、書道、ワイヤロープ上の綱渡り、池での羽目をはずした水泳の試みがあった。そして、トーマスとデートレフの企画により、学校囲碁チームのための「第1回国際おもちゃボート競争」も、ろうそくの光と人工照明のもと行われた。優勝したのはヨハネウム・ギムナジウムの子供たちだった。一番デコレーションがきれいだったボートがもらえる賞は、ベルリンのチームに与えられた。しかしアトラクションのうちで断然頂点を占めたのは、ピアノコンサートだった。ヴィクトーア・リン、ディミトリ・ポポフと小林アンナが、リスト、メンデルスゾーン、それにベートーヴェンを演奏し、最後に即興の連弾を聞かせてくれた。

 しかし碁のほうがおろそかになったわけではない!最年少の参加者は2年生だった。一番「同質」だったチームは、ブレヒト学校の3人の中国人のきょうだいチームだった。韓国と日本から来た3人は指導碁に大忙しだった。ヘープザッカー出版は、美しい絵はがきと碁笥3組を提供してくれ、その碁笥のなかには、小林千寿五段のおみやげの蛤碁石が3セット入っていた。カールセン出版の書籍も喜んで受け取られ、チョコレートのトロフィーも賞味された。日本棋院からのボールペンは、全てのチームがもらえるように、来年の9月に配られることになった。さあ来年も寝袋を詰めて、おそらく次の開催地になるだろうベルリンに行こう!





対局のライブ中継を担当したコルビニアン・リープル
 今回のHPMでの新企画は、最大3局までの対局をプロジェクターでライブ中継できたことです。もともとこれはフィラッハでの碁コングレスのためにローラント・レッツォがプログラムしたものですが、私がHPM用に調整しました。

 必要な装置は、棋譜をとるためのノートパソコンが1局につき1台と、そうしてとった棋譜を編集し、プロジェクターで映すための、「サーバー」役のパソコンです。これによって学校の講堂で対局の模様を中継することができました。

 この方法の利点は、対局者が観戦の人だかりに邪魔されなくなることと、もしパソコンの台数が十分にあれば、3局まで同時に観戦できることです。それに、この新しい技術で、ライブ解説も可能になります。ほかに便利な面としては、たとえば、進行係が大会の経過を映したりすることもできます。全体的に、こうしたことが可能になったことは大変好評で、来年も実現できればと思います。棋譜をとってくれたみんな、どうもありがとう!

組織委員長のハーラルト・クロルより、祝辞と感謝の言葉。今後の展望

◆増加するチーム数
 今年の参加申し込み登録の際に目立ったことは、多くの新しいチームの参加があったことです。大会発足当初からの主催者のうちで3年前に、ハーメルンや、メンヒェングラートバッハや、グラーフィングや、フレンスブルクから参加チームが出てくると予想できた人がいたでしょうか。


◆国際的になるHPM
 昨年はルクセンブルクのチームが事前の申込みなしで参加したのですが、主催者としては、それを快く思わない向きもあるのではないかという心配がありました。しかし表彰式ではルクセンブルクのチームにも、好意的な拍手が鳴りやみませんでした。私たちはそのことを嬉しく思い、またそれに力を得て、より多くの外国のチームの参加を認めることにしました。今年はチェコ、オーストリア、オランダからの3チームの参加がありました。チェコから参加チームがあったことは、私たちの関心を特にひきました。私たちの大会の名誉会長である、ハンスのお母さんのクヴェータ・ピーチさんがチェコ生まれだからです。国際ドイツ囲碁団体戦のタイトルがプラハにもたらされたことを心からお祝いします。



◆タイトル防衛
 前回優勝の、ベルリンの旧名ビューリング高校が、強い外国人選手の選抜チームのスパーリングの相手になるどころか、タイトルを防衛しようと意欲を見せたことは、それだけで本来驚くべきことです。タイトル防衛は難しいと思っていただけに、防衛して大変びっくりしました。前回と今回のドイツでのチャンピオンとなったプリモ・レーヴィ高校、心からおめでとう!


◆ハンス・ピーチをしのんで
 ハンス・ピーチを尊敬しながら思い起こすために設けられたピーチ賞も、この大会の大事な要素です。大多数のチーム、すなわち32チームが、最後にはこのピーチ賞を目指して競いました。こちらはハンデ戦であるため、どのチームも賞をねらえます。(競技前にアンドレ・ヴァイアーが参加者の棋力を、ヨーロッパのレーティングリストを使って調整しました。)ハーメルンから来たアルベルト・アインシュタイン・ギムナジウムチームが初のピーチ賞を獲得しました。心からおめでとう!


◆一番速いボートと一番美しいボート
 土曜の夜のイベントとして、毎回、囲碁以外のアトラクションが開かれることになっていますが、今回は囲碁とはほぼ完全に対照的なものが催されました。室内ではなく屋外で、静かにではなくにぎやかに、考えるのではなく工作するのです。デートレフ・ネーマーとその仲間たちが、前々から準備して、学校の池を使って、数次の予選まであるボート大会を実現したのです。これは、ドイツ中探しても見つからないような大会でした。ハンブルクとベルリンのボートが第一回ドイツおもちゃボート選手権に優勝しました。おめでとう!

◆インスピレーションと即興

 私が個人的に感動したのは、ヴィクトーア・リンが月光ソナタの第3楽章を演奏したことでした。葬送行進曲の部分の演奏は情感にあふれ説得力がありました。小林アンナも素晴らしい澄みきった音色でベートーヴェンのソナタを演奏しました。そして最後にディミトリ・ポポフが、喜びと自信に満ちた演奏を見せました。彼はメンデルスゾーンの無言歌のほか数曲を演奏し、翌日朝の集合写真の際のワイヤロープ上のパフォーマンスと並んで、大会を盛り上げました。3人のインスピレーションあふれる音楽の才能に感謝!

◆日本と韓国からのプロ棋士
 現在ヴィーン在住の小林千寿五段、ハンブルク在住のヨン・ヨンスン五段とカン・センヘ二段の3人のプロ棋士に来ていただきました。3人は詳しい解説や指導碁等で、いつもながら大変精力的に仕事をこなして下さいました。
◆素晴らしくアジア的!
 いつものようにアジア的に、リュウ・ペイさんが、漢字を筆と墨で紙の上に定着させる、書道の神秘的な世界を私たちにかいま見せてくれました。対局の合間にたくさんの生徒たちが彼女のところに集まり、集中して、落ちついた手つきで練習していました。日本的、韓国的、中国的な要素があることは、この大会にとって重要です。囲碁は東アジア中で打たれているのですから。美しいアジアの書道に感謝!


◆300人分の食事
 食事を作って下さった女性たちにも大いなる感謝を!オルデンフェルデ・ギムナジウムの25年にわたる炊事婦による給食制度は、100人を超える参加者に食事を提供するという、HPMのなかで非常に重要な課題を果たしてくれました。これは大変賞賛に値することです。私たちの世話をしてくださるという無条件の善意によって私たちがどれだけ助けられたかは、お金には到底かえられないものです。

◆新しいメンバーたち
 会うことができて素晴らしかった新しいメンバーもありました。クラウス・フリュッゲ、ミヒャエル・ミーネルト、オリヴァー・ヴァルデンたちです。囲碁指導者たちの会合での議論をかいつまんで紹介します。

 「囲碁指導者は考えられている以上に重要だ。(ホルスト・ティム)」

 「囲碁指導者は、囲碁に対する意識を高め、普及させる役割を持つ。(カーレン・ショムベルク)」

 「やる気を起こさせ、楽しみながら学べるようにすることが、指導者の本来の目標だ。どうしたら囲碁を学校における授業科目として組織化できるか。ちゃんとした報酬が得られるなら、すぐにでも授業で教えたいのだが。(シュテファン・ブーディヒ)」

「数学の授業に代わってチェスを取り入れる意義について、トリーア大学の女性教授が報告していたことを示唆したい。(カリ・バルドゥイン)」

 「チームの精神も重要だ。バイエルン州ではいまちょうど、各学校が独自色を出すことが求められている。囲碁がその助けになるだろう。(クラウス・フリュッゲ)」

 「囲碁指導者のそれぞれが来年までに、今教えている学校とは別の学校をもう一校訪問するように計画するといいと思う。(オリヴァー・ヴァルデン)」

 「何例かでもプロジェクトが成功したという実績があれば、校長レベルの会議で普及が一気に進むこともあるだろう。(カリ・バルドゥィン)」


 会議の結果得られた統一見解としては、私たち囲碁指導者たちは、普及にたずさわるものとしての自覚をしっかりと持って、囲碁をまだ知らない方面に囲碁を積極的に紹介してゆくべきだということです。カリ・バルドゥィンは、会議の後、彼が作成した、本物の石を置いて考えることのできる初級者用問題集を皆に見せていました。有料で授業を行いたいという囲碁指導者がいて、指導者を探している学校もあります。この両者をうまく結びつけることが今後の課題です。




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