西条雅孝八段


 夏ー囲碁―バカンスーイベント、、、連想ゲーム式になぞえれば、次に続くはもちろんヨーロッパ碁コングレス!と、言うのがヨーロッパ囲碁界の常識で、それくらいこの地に定着し愛され続けている、碁コングレス。
季節は違えど囲碁界のクリスマス?又はお正月?と言ってもおかしくないほど重要な、年に一度の囲碁の祭典だ。

 今年で46回を迎えるこの大会。毎年持ち回りで各々の囲碁協会がお世話をするのがしきたりで、当然ながら開催地も毎年変わる。
今年は旧ユーゴスラビア、クロアチアの首都ザグレブで2週間に渡って開かれた。
コングレスには毎年数百人の囲碁ファンが、棋力向上を求めて集まってくる。
このところの情報時代に併せ、インターネットの発達により以前と比べればずっと囲碁の知名度は上がっているものの、勉強の機会はまだまだ少ないのが実情だ。

それに加えプロ棋士からナマの指導を得られるのはそうないもので、みんな一言も聞き漏らさない熱心さで私達に向ってくる。あまりの真剣さにこちらもついつい引き込まれ熱を上げてしまうので、コングレスが終わった後のしばらくは何も手がつかず、ぼけーっと過ごしてしまうのも、これまた毎年のこと。
もちろん家族や恋人同士、バカンスがてらのんびり囲碁を楽しむ人たちも大勢いる。
肝心なのはマイペース。各々自分らしく自由に楽しめるのが、コングレスの魅力に思う。
来月号(碁ワールド10月号)では西条雅孝八段の手記による、詳しいコングレス報告があるはずだ。

 正直に言って西条先生の名は読者の皆さんにとって馴染みのない、誰それ?と思わず言ってしまう、日本国内では無名な棋士の一人だと思う。
恥ずかしながら私自身も同じ中部総本部所属の大先輩であり、20年近くも顔見知りの西条先生が、海外でこんな素晴らしい指導をされている事など数年前までは殆ど知らなかったのだから、皆さんなら尚更だろう。

 西条先生はとにかく、いつ、何時でも、囲碁指導に関しては決して断らない。打碁検討をして欲しい人がいる限り、対局を申し込む相手がいる限り、深夜を超えて明け方までも延々付き合うのである。
そして解説は論理的で明確、白黒はっきりさせるヨーロッパではみんなに大好評だ。

 こうしたノーと言わない西条先生を、仲間内では密かに”囲碁の仏様”と、呼んでいる。盤上を極めるのが神様なら、指導の道を極めるのが仏様なのか?それとも仏教国日本をイメージしてか?とにかくそれくらい、ヨーロッパの囲碁ファンの信頼と愛情を得ている西条先生なのだ。
西条先生の英語はひどい。「ブラックがアタリ、とするとホワイトはキャプチャーでしょ?ビコーズでダメね!」
これで通じるのだから、すごいやら恐いやらである。

 来年の話をするとなんとかが笑う、と言うけれどコングレスでは来年の開催国がこの場を借りて宣伝、売り込みをするのが慣しだ。
その来年はロシア、サンクトペテルズブルグで行われる予定である。会場の一角にはロシアコーナーが出来上がり、パンフレットや地図、コングレスTシャッを並べて紹介、気の早い人達はすでに申し込みを済ませ、来年の再会を誓い盛り上がっているほどだ。

 コングレスTシャッは毎年、各々の国ごとに工夫され作られるオリジナル。ロシア、バドック協会が来年のために選んだのは、ナント25年前に西条先生が藤沢秀行先生に勝利を収めた一局を、胸部にプリントしたもの。これには西条先生も思わずほろり、、、。

コングレスの別れ際、「このヨーロッパ碁コングレスの雰囲気を、来年も支えていって欲しい。」と、西条先生にポツリと言われた。

ここで生きる者の使命かもしれない。大先輩の言葉を胸に刻んで、来年もまた足を運ぶつもりだ。
コングレスTシャツを手にニッコリの西条雅孝八段