日本文化


 専門バカという言葉があるくらい、仕事にしろ何にしろ得意の分野に片寄ってしまうのはあるよくある話で、仕方のない事に思う。
自分にしても碁の事しか思い浮かばず、海外ではどんな日本文化が存在するか、どんな活動をしているか、など考えた事もなかった。

 ところが実際はあるわあるわ、いろいろあって、どうも囲碁よりずいぶん普及しているのだ。
合気道、柔道、空手はイタリア人にはなかなかの人気を誇る、花形スポーツ。特に合気道はミラノに立派な道場を構え、常時300人の弟子を持つ日本人の先生がいる。ちなみに弟子は殆どがイタリア人だそうだ。他にも剣道、居合を教える人もいる。
ローマには裏千家の茶道を教えて30年、という大ベテランの先生がいらっしゃる。
この先生、お年の頃は60代の小柄でかわいらしいおば様なのだが、イタリア人も顔負けの舌戦でお稽古をされる。
日本語のような曖昧な表現はイタリア人にはまず理解されない、できない。だから必然的に理屈で納得させなくてはいけないから、どうしても口達者になってしまう。プラスマイナス両面あるものの、それにしても30年のイタリア生活を通し、鍛えてこられた先生は迫力が違う。

ミラノにもお茶を楽しむグループがあり、昨年茶室が出きたのを機会に、時々指導にみえている。茶室、と言ってもイタリアにはその道の専門家はいないので、すべては手作りであちこち工夫を重ねようやく完成したらしい。
イタリア語はもちろんの事、フランス語、ドイツ語、英語もペラペラ。各国語で論文まで書く。そんなおば様はイタリアは狭しとヨーロッパ各国を駆け回り、お茶の普及に勤めていらっしゃる。

 最近、こちらでちょっとしたブームなのが指圧と霊気。
指圧はマッサージの一種として、数年前から名を広めて来た。これは分かりやすい。
霊気、これはいかにもうさん臭い。私自身、未だかつて聞いた事のない日本文化?だが、こちらではすごい勢いで伸びていて?待ちを歩けば霊気教室の案内、霊気グッズのお店がイヤでも目に入る。
何でも”気”を利用し、体調を整えるらしい。これで医者も見放した重病患者が治ったとか、奇跡が起きたとか、そんなこんなの話がゴロゴロしていて人気を集めている。
何だかどっかで聞いたような話だが、事実私の周りでも臥せっていた知人が霊気に通い出して調子が良くなった。
やはりなんらかの効力が、あるのかもしれない、、、。

 私の周りは囲碁仲間、囲碁友達ばかりで固められた凝りだが、そんな中、貴重な友達に生け花の先生がいる。
彼女は私と同年代、ご主人の仕事の関係でミラノに住んで8年あまり、つい最近までイタリア人相手に生け花を教えてきた。
パリやロンドン、ニューヨークといった大都市と違いまだまだイタリアは国際化からは遅れている。と、いうか保守的なのだろう。
彼女がミラノでは初めての本格的指導者であり、一人で切り開いて来た。何となくお互い状況が似ているせいか、妙に気が合う間柄だ、そんな彼女がとうとう音を上げ、しばらくは教えるのを辞めるという。
「イタリアでは自分の生け花を教えられないからー」
生け花の歴史が浅いイタリアでは、まず花の種類がないらしい。そう言えばこちらのフラワーアレンジメントでは時々キュウイとか、パイナップル、ゆで卵!とんでもない物が堂々と飾られていたりして、驚かされたっけ。
ともかく、基本の花が手に入らない事には話にならない。
それに仕入れる先はイタリア人、大箱に入れられ届く花は上部は新鮮なものでも、箱の底には腐りかけた残りが潜んでいる、、、、なんて事はしょっ中で、毎日苦情を言い合う生活だったと言う。

 「ユキちゃん、囲碁は良いわねー盤石さえあれば、どこでもできるもの。」と、ため息まじりに呟く彼女。
そうか、そうだったのか。
囲碁はすごいのだ!と、思ったら急に元気が湧いてきた。
やっぱりいろいろな世界に目を向け、視野を広げる事は大切なのだ、と改めて思うのである。