フィレンチェ


フィレンチェの風景

 イタリアの囲碁大会はなぜか秋から春に、固まって開かれます。こちらは夏休みが長いので、旅行やら避暑に出払ってしまうからでしょう。

 月一回のペースでイタリアの何処かで何かの囲碁イベントがあるので、何となく活気を感じるこの時期です。2月は別名『花の都』と呼ばれ親しまれる美しい古都、フィレンチェの囲碁大会でした。

 この地に囲碁クラブが誕生して今年で2年、この大会も2回目になります。
世話役のオリビエはイタリア人で9級。見ため50代前後の彼、囲碁歴は長いのですがそれまで相手が周囲に居なかったため独学で囲碁を学び、また当時無かったイタリア語の囲碁入門書を『無いのなら作ろう!』と、自分で書いてしまった人です。

 今の時代でこそインターネットの普及により情報入手は手軽だし、イタリアでも英語の読み書きをする人が増えているので、英語版囲碁本で学ぶ事も出来ますが、それ以前は果たしてどうだったのでしょうか。想像も付かない苦労があった事でしょう。

 さて大会はミラノやピザ、ローマ、ボローニャ等のイタリア国内に合わせお隣のスロベニアからも駆け付け30人程、まずまずの賑やかぶりでした。

イタリアの最強者は4段、初段以上のイタリア人は数える程しかいなく、囲碁レベルは高いとは言えません。

反面、級の人達や初心者中心の大会が多いので誰でも参加しやすく、賞金も出ないので雰囲気はどことなく柔かで、アットホームな感じがあります。

この大会も30人中、有段者はごく数人で7割が5級以下でした。

 生れて初めて囲碁大会に参加する、と言う若葉マーク組みもちらほらと。お互いに上達の悩みを打ち明けあったり励ましあったりと、微笑ましい光景があちらこちらのテーブルで見られました。

普段は少ない入門者もこうした大会は仲間に巡り会える絶好の機会、また棋力向上になる事間違いなしですし、いろんな意味で貴重ですね。
この街の美しさを説明するのは至難の業ですが、あえて言うならばここに居るだけで、この空気を吸っているだけで、歴史と芸術に包まれ胸いっぱいの幸せな気分、、と、まあこんな感じでしょうか。

 欧州に限らず世界各国から人々が押し寄せる観光地、それに合わせてスリも、、、。
何を隠そう忘れもしない、ここは私が初めてスリに遭遇した街でもあります。

 こちらに来て一年目、日本から遊びに来た友達とフィレンチェ見物に繰り出した時です。
買い物好きな友人に愛想が尽きて一人、街のシンボル大聖堂の前でしばしその荘厳さに見とれていました。

 いつの間にか私の傍にジプシー母娘が。
母は『家もない、お金もない、食べ物もない』と書いた段ボールを片手に、もう片手を物乞ポーズで擦り寄って来ます。

娘は8才くらい、可愛らしい顔だちでしたが服はボロボロ靴は無く、自分と同じぐらい黒く煤けたお人形を抱いていました。

今もってその時の心理状態は不可解なのですが、なんと私は突然ジプシー母に向かってお説教を始めたのです。

『あなたね、こんな事している間にちゃんと働きなさい。子供がかわいそうじゃない、人生他人にすがってちゃダメなの、わかる?』

な〜んて事をえらそうに一説ぶっている間に、段ボールの下からジプシー娘に財布の、しかも現金だけを抜き取られていたとは情けないったらありゃしない!

最後にはジプシー母にお礼まで述べられ、良い気になっていたのですから相当なおめでたぶりです。
唯ただ呆れて怒るよりも笑えた、記念すべき私のスリ初体験でした。

 それ以後も未遂は数知れず、置引きで全財産無くすわで、自慢じゃありませんがこの手の事にもずいぶん慣れさせて頂きました。

 予防策?まずは貴重品現金を持ち歩かない事、これが何より一番ですよ〜