囲碁教室


 この所、なにかと事件の多いイタリアである。
まず、3月には大学教授で欧州委員会の中の労働関係協会でアドバイザーをしているマルコ某氏が、バイクで帰宅した直後、自宅前でピストルで打たれ殺された。
犯人は”赤い旅団”という名の左翼グループで、過去にも数々のテロ行為をこなしている、本格派グループだ。
理由はベルルスコーニ首相の下で、推し進められている新たな雇用法に対する抗議の行動である。
どこかの国ではむやみやたらにテロ撲滅!と、叫んでいるにも関わらず、イタリアでは今のところそんな事件など無かったかの如く、政府も世論も静かなものだ。

 以前、このページで紹介したイタリア名物ストライキも、益々本格化しつつある。メイン労働組合上げての全国ストライキに、200万人が参加。20数年ぶりに記録を塗り替える動員数になったらしい。
人口約6000万人弱のイタリアでこの数字は強烈だ。殆どの会社は休みとなり、鉄道、バス地下鉄と言った公共交通機関の殆どがストップ。必然学校も閉校、ゴミ収集車も来ないから大変である。
ミラノで一番の高層ビルに小型機が突っ込んだ事件は、皆さんの記憶にも新しい事だろう。今頃まだやってるわ、と食傷気味な気分でよくよく見たら、見慣れたミラノの中央駅ではないの!こうした事が身近に起きるとは、まさかのまさか、、、、である。

 この事件の直後には、何人かの知人友人からお見舞いのメッセージを頂いた。気にかけて頂き、ありがたい。
実際の所ミラノではテロの心配や社会不安、と言った暗いムード全くない。あの事件現場にしても、一種の観光名所と化している。
しかもいい年したおじさん達(なぜかスーツ姿でバシッと決めた人が多い)が、野次馬的に集まっている。特にテレビ中継がある時は決まってレポーターの背後から背後霊の如く、ずらーっと立ち並ぶのである。そしてなぜかまた決まって片手を耳にあて、携帯電話をかけている。つまり自分がテレビに出ている事を自慢、報告しているのである。

そんなおじさん達がテレビに映し出される度に、ため息と共になぜか羨ましく思えるのである。これもある意味、ゆとりなのかもしれないと。
(道場での囲碁風景)
 私自身もこの時期、一大変化があった。ここへきていよいよ、自ら囲碁教室を始める事になったのだ。
現在、ミラノで唯一ある碁クラブの活動は土曜午後の公民館での定例会に、不定期で木曜夜バール(イタリアには珍しい地ビールのお店)に集まり深夜まで対局している。
発足したのは10数年前から、みんな和気あいあいと楽しい人達だ。強い者が弱い者を教え、初心者が入門者を教える、そうしてお互いに支えあって長年続いているクラブだ。反面で仲間意識が強く、不分子を受け付けない所がある。
こうした傾向は尤もイタリアらしい、と言えばらしい。
お陰で数年前からミラノを中心としたイタリア囲碁界は二グループに割れ、当分治まりそうにない。
そうした事情もあってなかなか腰が上がらなかったけれど、賛同、協力してくれる仲間との出会いを機会に思いきる事にした。
とりあえず夏休み前までをひと目安とし週一回、私の初弟子で合気家のジュゼッペの道場に集まっている。私は毎週は参加出来ないが、月3回程指導にあたり月謝も頂く。
習い事には謝礼を払うのは当然だが、囲碁に関して今までそうした習慣の無いヨーロッパでは、そうそう簡単な事ではない。月謝が必要と知り来なくなった人もいる。
その事もあり大勢は集まらないと思ったが、それでもいいと思った。それよりも本当に囲碁を学びたい、真剣な人が来てくれたら、と。結局、集まったのは8人だった。 
不思議な事に殆どが初心者のイタリア人に、中級クラス、加えて一人は世界アマ選手権イタリア代表の初段、、、。
10年来のミラノ常連メンバーは、一人として来なかった。
みんなとても熱心に、毎回私の講義に来てくれる。足の痺れもなんのその、道場の畳にも我慢して慣れてくれている。自分で言うのもなんだけど、雰囲気はとても良い。
量より質で勝負、ともかく細くとも長く、続けていけたらと思っている。
(道場主のジュゼッペさん、Mr.Giuseppe)