ストライキ


 このところイタリアは連日のごとく、どこかで何かがストライキ(イタリア語でショペロ)で、止まっている。
ちなみに今日はイタリア中の全空港が一日ストライキ。
但し、さすがに全く飛ばないのも法律上禁止されているらしく、午前午後合わせて数時間は業務するらしい。
まるで年中行事の一つであるかの様に自然な感覚で、それはある日突然発表され、そのわりにはかなりの確率で施行される。

 日本のように毎度毎度”ストの予定”と、名ばかりの実際起きないお国柄とは違う。
いつだったか『この頃日本から郵便来ないね。とうとう忘れられたかね〜』と、ダンナにからかわれ半ベソをかいた事があったが、それは郵便局のストライキであった。この時は3ヶ月間続き、その間小さな郵便局は全面ストップ、主要局のみ間引き営業。全くふざけた?真剣な?イベントである。
トラブル続きの末半年後にようやく我が家に届いた”半生熟成味噌煮込みうどん”を開封する勇気も無く、泣く泣く処分したのは今でも忘れられない。食物の恨みは恐い。

 それにも増して今回はすごい。先週はイタリア中のタクシーを除いた全交通機関が、半日ストライキ。当然、道路は車で溢れ大渋滞、街はカオスと化す。
”今日はやけに静かな試合だなあ”と、サッカー中継を見ていたら、なんと解説者がストライキをしていた。個人的にはやたら機関銃のようにがなり立てるイタリア風解説付より、この方が好みだが。
今回の理由ははっきりしている。昨夏、新首相に選ばれたベルルスコーニ氏率いる内閣が、このほど打ち出した労働者憲法改正案に反対、抗議の行動らしい。
この改正案とは会社や雇用主側の自由意志で、従業員の解雇を出来るようにしよう、と言うもの。イタリア中の労働組合が怒りを爆発させるもの、無理のない事だろう。
(我が家の周辺)
 さて、我が家の周囲は公園である。と、言うよりは雑木林の中に突如として家が存在する、、、と、言った方がピッタリくる。まだ好き勝手に住居建築が許された時代に建てられた家を、10数年前にダンナファミリーが購入した。
現在では勝手に木も切れないどころか、草花一本も手折れない。住居者以外の車の進入も禁止と、守られた自然の中で生活している。
我が家の前の遊歩道は所々にベンチや水飲み場が設置され、市民の憩いの場所だ。
日中は御隠居おじいさん軍団がたむろし(なぜかおばあさんはいない)夕方には若いアベックが、週末は家族連れなどで賑わう。

 ここに住んで5年、御隠居軍団の中にも馴染みの顔が出来たし、散歩にくる人を捕まえて碁の話しをするのも悪く無い。と、思い立ったある晴れた日、私は9路盤を持参し遊歩道に出かけた。
まずお気に入りのおじいさんを探す。年の頃は80才くらい、年金生活を楽しむこの人はいつも『チャオ、ベッラ、シニョーラ!』(綺麗な奥さん元気かい?)と、声を掛けてくれる明るいイタリア人。
毎日、食後の散歩にここを訪れるのが彼の日課だ。

断っておくがこうした台詞は挨拶がわり日常茶飯事で、全く意味はない。が、何にせよ単純に嬉しいものだ。 
この日、おじいさんの廻りには珍しく私と同世代数人がたむろしていた。でも何となく表情が冴えない、暗い。 
よくよく話しを聞いて見ると、その日は職業安定所のストライキ。仕事を探している彼らは、一日途方に暮れていると言う。

 待ってました!と、ばかりに9路盤を出しルール説明。
盛り上がったところで、彼らの一人から質問を受けた。
『このゲームは金になるか?』  
『う〜ん、今の状況だと難しいわねえ。』 
しばらく沈黙した彼、
『おまえも大変だな、でもがんばれ。ジーザスが守ってくれる。』
『、、、、。』
仕事が見つかったのだろうか、あれ以来彼らに出会わない。帰り際に進呈した9路盤セット、少しは使ってくれただろうか、、、。
明日は福祉職員組合がストライキを予定している。この戦いは当分終わりそうもない。