冬のミラノ


 Buon Anno!(明けましておめでとう)
ミラノで迎える新年も、今年で5回目になった。

 ハッキリ言って冬は嫌い、それもミラノの冬は最悪だ。
アルプスを挟みスイスとは南北に対するミラノだが、意外に雪は降らない。そのかわり冷え込みはきつく、12月を待たずに朝晩氷点下。それが春先まで続くのだからどうにも堪え難い。

それに加えて、何週間もお日さまを見る事がなく霧ばかりの日々が続く。この時期ばかりは周りの人までも口数が減り、暗く、陰気になるのだから自然の与える影響力は恐ろしい。
一言付け加えれば、一般にイメージされる陽気で明るいイタリア人はあくまで南イタリア、ローマ以南の事を指し、そこにはもちろん冬でも燦々と太陽が輝いているはずだ。

 又、たまに晴天だと頭の芯がカキーンとくる程、寒い。
鼻水も凍る。こうした現象を「放射冷却」と言ったような気がするが、自信がない。忘れてしまった。

 そういえば最近、日本語を見聞きする機会が少ないせいか、もっぱらダンナ相手のミックス語(イタリア語+英語+日本語+ジェスチャー付き)の奇妙な会話が中心なせいか、どうも日本語が危ない。自分で新しい日本語を作っているような気もする。

”3か国語も話せてすごいね”と羨まし気に言われる事があるが、それって大いなる錯覚。実はどれもこれも役に立たないので、仕方無くみんな寄せ集めてカバーしてるだけだ。日本語が低下する分、他が上達する訳でもなし。

現に私の英語は母音まで言い切らなければ気の済まないイタリア訛りにリズム、アクセントまで、すっかり染まってしまったし。
言語だけでその人のアイデンチィチィーが決まるとは思わないが、無関係ではないはず。悩む前に勉強すれば良いだけの話しだが、とにかく今後の課題である。

ちなみに我が家の日常会話はこんな感じ、
「ちょっとウェイトね」
「アンコーラみそスープ?」
「あしたファッチアーモ」(明日しよう)
 ―――――失礼しました!


 すっかり話しが逸れてしまったけど、この最悪の時期を乗り切る必要不可欠な清涼剤と言えば、やっぱりナターレ(クリスマス)と新年だ。
正確には12/8聖母マリア受胎告知の祝日から1/6(公現際)までの一ヶ月間、宗教上のしきたりに添い行われる至って厳粛なものだ。

日本のように本来の意味を無視し、御歳暮戦線や経済効果のためにやたらと世間を煽り立てるような事は少ない。
ミラノの場合12/7がミラノの守護人、聖アンブロージョの祝日である事で、ナターレもこの日から始まる。

 まず目を奪うのは光りのデレーション。一般的にはデザインされたライトを道路の両脇から釣り下げ、光りのアーチ風に飾るケースが多い。
どんな小さな街でも各々趣向を凝らし、一つとして同じものはない、、、、と思う。
見ているだけでそこにいるだけで、ドキドキワクワク。
お陰で寒さで縮こまった心も身体も徐々に解凍され息を吹き返し、残りの辛い日々も耐えられるような気になってしまうから不思議だ。

 オペラファンには必見のミラノ、スカラ座もこの日から開幕する。招待された名士や著名人、映画スター達がこぞって着飾りニュースを賑わかすのも、12/7の恒例行事だ。

この連休を利用して、家族でスキーなどに出かける人も多い。イタリア囲碁協会も週末と併せて4日間の囲碁大会を企画している。昨年からはマインドスポーツオリンピック協会とタイアップし、50種余りのゲームやイベント協会と合同でお祭りに仕立て上げ注目度を増している。前年はこの間に2万人の人出があったと言う。
さて、何よりこの季節の一番良いしのぎ方は、暖かい地方へ囲碁指導に脱出する事だ。

 動機は少々不純だが、これも一つのきっかけとも言える。
問題はダンナの御機嫌をどうとるか、、、こちらの方が季節に問わず私にとっては死活問題、最強の敵なのだ。

 イタリア語の上達とダンナの操縦法、この2本立てが密かな今年の目標である。