応氏杯ルールで対局


 毎年3月に開かれる応氏杯子供囲碁大会は、ヨーロッパで唯一の統合子供大会で、私が一番楽しみにしている大会でもあります。

 今年はルーマニアの古都シナイアに11ヵ国125人、30級から6段までの子供達が集まり、雪景色の中寒さも何のその、3日間にわたって催されました。
 台湾の大財閥で大変な囲碁キチ、応氏(海外ではINGと呼ばれています)の話は皆さんご存じかと思います。
 4年ごとに開く世界応氏杯のスポンサーであり、また独自のルールを発案、奨励のために世界各地に寄付をし、海外囲碁界に大きな変革を与えた人でもあります。
 数年前にご本人は亡くなったのですが、遺言により囲碁への支援は未だ変わらず続いています。
 この大会はその応氏主催の世界子供大会へのヨーロッパ予選で、今年で5回目。私は2回目から参加しています。

 毎年開催地が変わる関係で参加国の顔触れも変わります。
例えば昨年の開催地フランス、カンヌではフランスの子供達が半数を占めスペイン、イギリス等の参加もあったのですが、今年は西側国からはたったの8人に対し地元ルーマニアが80人、ロシア、ウクライナなど東欧諸国からの参加が目立ちました。
 子供達にとってこの大会は碁を通し新しい仲間との出会いの場であり、また真剣勝負で腕を磨く貴重な機会です。しかし、広大なヨーロッパのこと、移動費用がかかり経済的に参加出来ない子供達がたくさんいるのが現状で、年々子供囲碁人口は増えているにも関わらず、この大会の参加者があまり増えないのは最大の問題でしょうか。        

 12才、18才以下の2クラスに分かれ6局対戦し、12才のクラスからは上位2名、18才クラスは4名が7月チェコのプラハで開かれる世界大会に招待されます。こんなビックなご褒美に、強い子供達はそれ狙いで遠方の国からも駆けつけますが、緊張してるのは父兄ばかり。日増しに疲労感でやつれていく大人達とは対照的に、新しい友達との出会いや再会で子供達は日増しにパワフルに、元気なものです。

 応氏杯ですから、応氏ルールの使用が義務づけられています。これがまあなんと言うか、とてもとても文章で説明するのは難しい、ヘンテコルールなのですが、とりあえず大まかに書いて見ましょう。
 まずコミは8目、取り石は相手に返します。終了後、自分の地に碁筒に残った自分の石を埋めていき、最終的に残った地が多い方が勝ちになります。ダメも1目になり、最後は『パス』とお互い言いあって終局です。このルールは正確に180個の石が必要で、その為に専用の碁筒も開発され世界中に無料でばらまかれています。
 つまり資金援助や大会スポンサー、囲碁用品の無料提供等といった援助と引き替えに、応氏ルールを使っていると言う訳です。

 実際このルールで毎回正確な碁石が必要となると管理が大変で、特に子供大会には不向きです。またプラスティックの特製碁筒は美的感覚ゼロの不細工な代物で、しかも壊れやすい。日本人の目から見れば”無いよりはまし”と言うレベルでしょうか。
 しかしまだこの碁筒があれば良い方です。今回の大会では半数の対局で碁筒が無く、ビニール袋のまま。子供達は盤上に石を並べ数勘定し、そのままザザ〜ッと盤側へ石を押しやり対局を始めるのですから、マナーもなにもあったものではありません。

 囲碁物資や援助の少ない海外で、贅沢は禁物です。こうした子供大会が存在し、多くの子供達が楽しめる事が何より一番大切ではないでしょうか。